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松山地方裁判所 昭和31年(ワ)387号 判決

原告 後藤信正 外四名

被告 千代田産業株式会社

主文

一、原告後藤信正、原告稲本早苗、原告松木健夫、原告武市通佳はいずれも被告会社の取締役でないことを確認する。

二、被告会社は原告後藤信正、原告稲本早苗、原告松木健夫に対し松山地方法務局昭和三十一年七月七日受附第五百四十二号取締役就任登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告会社は原告武市通佳に対し昭和三十一年八月十日松山地方法務局受附第六百十二号取締役就任登記の抹消登記手続をせよ。

四、原告高岡貞一郎は被告会社の監査役でないことを確認する。

五、被告会社は原告高岡貞一郎に対し昭和三十一年八月十日松山地方法務局受附第六百十二号監査役就任登記の抹消登記手続をせよ。

六、訴訟費用は被告会社の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は請求の趣旨として主文同旨の判決を求め、請求の原因として

一、被告会社は昭和二七年三月一八日設立され、昭和三一年六月一五日まで本店を東京都目黒区柿の木坂一二番地に置き、

(一)  鉱業土石採取業及び鉱産物及び土石の売買。

(二)  化学工業、金属加工、電気事業、農林事業。

(三)  鉱産物及び土石問屋業、運送業、保険代理業。

(四)  前各号に掲げるものの附帯事業。

をその目的とし、資本金二五〇万円、株式一株の金額五〇〇円、発行済、株式の数五、〇〇〇株で代表取締役は朝月勇であり、昭和三一年六月一五日本店を松山市中一万町八番地に移した。

二、被告会社は昭和三一年六月三〇日定時株主総会において原告後藤、原告高岡、原告稲本、原告松木を取締役に、原告武市を監査役に選任し、その承諾を得たりとして同年七月七日松山地方法務局受附第五四二号をもつてその就任登記をなし、同年八月七日原告高岡は取締役、原告武市は監査役をそれぞれ辞任したりとなし、同八日臨時株主総会において原告武市を取締役に、原告高岡を監査役に選任しその承諾をえたとして同年八月十日松山地方法務局第六一号をもつて転任及び就任の登記をなした。

三、しかし右各総会において原告等を右会社役員に選任する決議はなされていないし、仮りに右決議があつたにせよ、原告等はその承諾をしていないから、右会社役員でないことの確認ならびに右各就任登記の抹消登記を求めるため本訴に及ぶ

と述べ、立証として甲第一号証、甲第二号証、甲第三号証の一、二(原告等関係部分は偽造文書)甲第四号証の一(前同)甲第四号証の二、三(偽造文書)を各提出し、原告本人後藤信正(第一・第二回)原告本人高岡貞一郎、原告本人武市通佳の各尋問を求めた。

被告会社代表者は最後の住所である松山市中一万町八番地を昭和三一年九月いでその後所在不明であるため公示送達による呼出をなしたところ、右代表者は本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。

理由

第一、説明の便宜上、本件請求に対する判断に先立ち本件の問題点につき当裁判所の採つた見解を明らかにしておきたい。

一、取締役、監査役の資格取得時期。

取締役、監査役はいずれも株主総会においてこれを選任するものであるところ、商法第二五四条第三項第二八〇条により右株主総会における選任決議は会社内部における会社機関の設置行為にすぎず被選任者においてその就任を承諾したとき始めてその資格を取得するものと解すべきである。

二、本件被告代表者につき商法第二六一条の二の適用があるか。

取締役が会社に対し、訴を提起する場合には取締役がその資格において訴を提起する場合であると、個人として訴を提起する場合であるとを問わず商法第二六一条の二によりその訴につき株主総会又は取締役会の定める者が会社を代表すべき者となることは明らかである。

これに対し被選任者たる取締役がその選任決議の取消無効の訴を提起する場合には自己の取締役たる地位を否定しようとする訴であるから商法第二六一条の二の適用はないとする有力な学説がある。

しかし、選任決議取消の訴の場合は取締役たる資格を被選任者が是認してなす以上商法第二六一条の二の適用を免れえまい。被選任者がその就任の承諾をしておらず取締役の資格がないとして他の資格たる株主(商法第二四七条参照)として訴を提起する場合にはその適用のないこと当然である。決議無効の訴の場合も選任決議は判決の確定により始めて無効と認められるのだから、その就任を被選任者が承諾している以上外形上は取締役の資格を取得しているから同条の適用を受けざるをえない。被選任者が就任を承諾していない場合は取締役たる資格がないから第三者(取消の訴のごとく訴提起権者の制限がない)として同条の適用を受けないで訴を提起しうることは当然である。

飜つて本件のごとく選任決議をなした株主総会そのものの不存在を前提としその決議の不存在を理由として自己の取締役たる資格の存しないことの確認を求める訴においては右選任決議は前記無効の場合と異り絶対的にかつ当然に無効であるから商法第二六一条の二の適用はないものと解せざるをえない。

加うるに、選任決議が有効に存在する場合にも、その就任の承諾なき以上、取締役たる地位を取得していないこと前示一のとおりであるから商法第二六一条の二の適用を受けるものではない。

そうすると原告等中原告高岡を除くその余の原告等が代表取締役朝月勇をもつて被告会社代表者として訴を追行していることは相当である。

第二、原告の本訴請求に対する判断。

公文書であることにより真正に成立したものと推定せられる甲第二号証に弁論の全趣旨を綜合すると、被告会社は昭和二七年三月一八日原告主張のとおりの目的で資本金二五〇万円、額面株式の券面額一株金五〇〇円、株式の総数五、〇〇〇株とし本店を東京都目黒区柿の木坂一二番地に置き設定せられた株式会社でありその後昭和三一年六月一五日本店を肩書地に移転したこと、松山地方法務局昭和三一年七月七日受附第五四二号をもつて昭和三一年七月一日原告後藤、原告高岡、原告稲本、原告松木が被告会社の取締役に、原告武市が同じく監査役に各就任した旨、同年八月一〇日同法務局受附第六一二号をもつて昭和三一年八月一日取締役原告高岡、監査役武市通佳は各同年八月七日各辞任し同日原告武市が取締役に、原告高岡が監査役に各就任した旨商業登記簿に各記載せられていることが各認められる。

原告は被告会社の昭和三一年六月三〇日定時株主総会における原告後藤、原告高岡、原告稲本、原告松木を取締役に原告武市を監査役に選任する旨の決議及び同年八月七日臨時株主総会における原告武市を取締役に原告高岡を監査役に選任する旨の決議はいずれも存在しない旨主張するけれども、右主張を維持するに足る立証はない許りか却つて原告等に関する部分を除く甲第三号証の一、甲第四号証の一は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められるところ、これによると右各選任決議はいずれも有効になされたものと認められる。

次ぎに原告等はその就任につき承諾をなしたか否かにつき審究する。原告本人後勝信正、原告本人高岡貞一郎、原告本人武市通佳の各尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると原告後藤、原告高岡、原告稲本、原告松木、原告武市は昭和三一年六月三〇日の被告会社の定時株主総会においてそれぞれ取締役監査役に選任されたことを知らず、かつその就任の承諾をしたことはないこと、甲第三号証の一、甲第三号証の二のうち右原告等に関する部分は朝月勇が偽造したものであること、したがつて昭和三一年八月一日就任もしていない原告高岡が取締役を、原告武市が監査役を辞任したことはないこと、甲第四号証の一、甲第四号証の二は朝月勇の偽造したものであること、原告高岡、原告武市は昭和三一年八月七日の被告会社の臨時株主総会において原告高岡が監査役に、原告武市が取締役に選任する旨の決議のなされたことを知らずかつその就任の承諾をしたことはないこと、甲第四号証のうち右原告両名に関する部分は朝月勇の偽造したことが各認められ他に右認定を左右するに足る立証はない。なお、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる原告等に関する部分を除くその余の甲第三号証の一、二に弁論の全趣旨を綜合すると、右昭和三一年六月三〇日の定時株主総会において取締役に選任せられた朝月勇、朝月登、須賀薫一は同日その就任を承諾し、同日取締役会において全員一致で朝月勇を代表取締役に選任したことが認められ他に右認定を左右する立証はない。

右事実によると右代表取締役の選任は定足数の取締役によるもので商法第二五五条第二六〇条の二に反するものでないから有効であり、任期は満了したけれども新に選任された取締役の存しないこと前示甲第二号証により明らかであるから商法第二六一条第二五八条により現在も代表取締役の権利義務を有すると認める。

右次第であるから原告等はいずれも右会社役員となる就任の承諾をしておらないにかかわらず前記のごとく会社役員としての不実の商業登記がなされ現に存続中であり、その後新たに会社役員に就任した者(商法第二五八条第二八〇条参照)のないこと甲第一号証の記載により明らかで確認の利益の存するものと認められるから、原告後藤、原告稲本、原告松木、原告武市はいずれも被告会社の取締役でないこと、原告高岡は被告会社の監査役でないことを確認すべく、被告会社は原告後藤、原告稲本、原告松木に対し松山地方法務局昭和三一年七月七日受附第五四二号取締役就任登記の抹消登記手続を原告武市に対し昭和三一年八月一〇日右法務局受附第六一二号取締役就任登記の抹消登記手続を原告高岡に対し昭和三一年八月一〇日右法務局受附第六一二号監査役就任登記の抹消登記手続をそれぞれなすべき義務があると認める。

第三、結語

そうすると、原告等の請求はすべてこれを相当として認容し、訴訟費用については民訴第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢島好信)

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